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タクシー
2007-01-11 02:28
18時40分

バスは予定より30分ほど早く新宿駅に着いた。

行きの新幹線があまりにも速く心地よかったので

それなら、帰りも新幹線にしておけばよかった

と、着いてもなお後悔している諦めの悪い僕。



とりあえず、異常に重いこのスーツケースを

大都会東京の帰宅ラッシュの中転がして帰るのは無謀ということで

タクシーに乗ることにした。

駅前の乗り場で拾い、トランクルームに荷物を載せ、乗り込んだ。

後部座席から見る後姿から推測するに、60歳くらいのおっちゃん。

行き先を告げると、道順を説明し、そのルートでいいかどうかを確認してきた。

なかなか感じのいい丁寧な口調に人のよさを感じ、ホッとした。



走り出して間もなく

「どこからお帰りですか?」と彼が尋ねてきた。

「京都の実家に帰ってたんです。」と僕は答えた。

人がいいのは結構だが、もしや口数の多いタイプのドライバーでは。

それが別に嫌なわけではないが

僕は、タクシーには無言で乗っていたい人。



「やっぱり、京都は寒いんじゃないですか?」。

どうやら間違いなさそうだ。

ここから自宅までのおよそ20分が、小さな試練になることを僕は覚悟した。



「うちの娘が京都へ働きに出てるんですよ。新幹線が高いからって、正月も帰ってこなかったです。安月給だから仕方ないかな。」

彼は少し笑いながら言った。

僕は愛想笑いを返した。

「東京はまだ正月モードですよ。この時間にこの道がこんなに空いてるなんて考えられない。いつもなら、車の列で前が見えないですからね。」

彼の口は一向に閉じる気配が無い。

その後も、

抜け道の話

生涯で1度だけの京都旅行で食べた土瓶蒸しが信じられないほど美味しかったこと

地下高速の工事が長いという愚痴。

その都度僕は、バレバレな愛想笑いと適当な相槌をひたすら返した。



続いてしばらく沈黙の時間があり、彼は再び話し始めた。

「うちには息子もいるんですけど、それが2年ほど篭もっちゃっててね。母親とは仲が良くて話したりするんですけど、私とは一切口を聞かないんですよ。」

そのプライベートで、かつ重く暗いテーマに、僕はドキッっとした。

「原因はわかってるんです。前に2人で長野に長距離ドライブに行ったんですよ。その時、私が息子の運転を注意したんです。あまりに飛ばすもんだから。ほら、自分がこういう仕事をしてるでしょ、だから余計に厳しく言ったんですね。おそらく、それが気に食わなかったんでしょうね。その日以来です。」

果たして、スピードの出し過ぎを注意されたことだけで

口を聞かなくなる奴なんているだろうか。

それはあくまでもきっかけにしか過ぎず

それ以前から溜まりに溜まった不満が父親に対してあったのでは

と思ったが、

底無し沼にはまってしまっては面倒だから

そこでも適当に相槌を打ってスルーした。



話はまだ続く。

「例えば殴りかかってきたりね、突っかかってきたりして、それから話して仲良くなれるなら、よっぽどそっちの方がいいけど、そっぽ向かれてしまったらどうしようもないでしょ。きっと死んだ時に分かるんですよ、私が死んだ時に。悲しいけどね。ま、最近多い親子間のいざこざを考えると、無事で元気にいてくれてるだけで十分ですね。」

交差点で右折待ちをする彼の背中が

対向車のヘッドライトの逆光の中で

少し寂しく映った。



その言葉を最後に

彼は一切話さなくなった。

唯一

「その信号を右に曲がった先の、セブンイレブンの前あたりで。」という僕に対しての

「はい。」という返答だけ。



そして、車はセブンイレブンの前で停まった。

料金は2580円。

思っていたより安くついた。

先に財布から3000円を出した。

細かいのがあれば、と小銭入れを覗き込んだ。

車内が暗くよく見えない。

ライトの光を拾って慌てて小銭をかき回した。

「すみません。ちょっと待ってくださいね。」と言い

80円を取り出そうとした。

すると、財布に突っ込んだ僕の手元へ彼の手が伸びた。

手には500円玉。

僕は顔を上げ、彼の顔を見た。

「細かいのはいいよ。心ばかりだけど、2500円で。」

僕は言葉に詰まった。

今までで、運賃を負けてもらったことがないというのもあるが

初めて正面から見た彼の顔が

あまりにも優しかったからだ。

僕は、その笑顔に驚いた。

「ありがとうございます。」

そう言うしかなかった。



そして、500円玉を受け取ろうと手を差し出し

再度お礼を言おうとすると

彼は照れたようにこうつぶやいた。
























「親御さんを大切にね。」








「はい。」

僕は笑顔で答えた。

愛想ではない、自然とこぼれた笑みだった。



トランクルームからスーツケースを担ぎ下ろし

窓越しに僕は会釈した。

彼は、にこっと軽く右手を振り走って行った。








彼が娘や息子の話を僕にした理由はわからない。

話したかっただけなのか。

それとも、僕に何かを求めていたのか。

わからない。

ただ

あなたのお父さんは

人と愛を運ぶ素敵なタクシードライバーですよ

と、2人には教えてあげたいと思った。





オリオン座がくっきりと見える

冬の夜のできごとでした。




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コメント
心温まる話をどうも。朝の7時半に心がキュソってなりました。






















あ、今年もよろしくお願いします。
2007-01-11 07:23 | URL | ポ2007ン #-[ 内容変更] | top↑
あ、よろしく。
2007-01-11 23:50 | URL | 3BA #-[ 内容変更] | top↑
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